
股関節や膝を人工関節に置きかえる手術を終え、退院はしたものの、家に戻ってからの足の重だるさやこわばりに戸惑う方は少なくありません。手術で関節そのものの痛みは減っても、まわりの筋肉の張りや、動かせなかった間の力の落ちは、しばらく体に残ります。この記事では、術後の在宅での回復期に訪問鍼灸マッサージがどんな補助をできるのか、そして受診や主治医との連携で欠かせない目安を、順を追ってお伝えします。
要点から。人工関節の術後は、可動域や避けたい動き、脱臼を招きやすい姿勢が手術の内容によって違います。何を差しおいても主治医と理学療法士の指示が優先で、発赤・腫れ・熱感・急な強い痛み・発熱があるときは、まず手術した病院へ。鍼灸はこれらが落ち着いた回復期に、医師の方針を確かめたうえで補助として組み合わせるものです。手術とリハビリが治療の主役で、鍼灸はそこに添える立場。自宅で1回受けたときの自己負担は、1割の方でおよそ395円が目安です(総額3,950円)。効果には個人差があります。
人工関節に置きかえたあと、体には何が残るのか
股関節や膝の変形が進んで歩くのがつらくなったとき、傷んだ関節を人工のものに置きかえる手術が選ばれることがあります。関節そのものの痛みは手術で大きく減ることが多い一方、体には別の変化が残ります。切開した部分のまわりの筋肉がこわばる、動かせなかった期間に足の力が落ちる、痛みをかばっていたころの体のくせがそのまま抜けない。こうしたことから、退院後も足の付け根や膝、太もも、ふくらはぎに重だるさを感じる方は珍しくありません。
手術はゴールではなく、回復の入り口です。そこから家で体をならしていく数か月が、その後の歩きやすさを左右します。焦って一気に動かすより、その日の状態に合わせて少しずつならしていく。この地道な時間をどう過ごすかが、遠回りに見えて確かな近道になります。
急な腫れや発熱があるときは、迷わず手術した病院へ
鍼灸の話に入る前に、先にお伝えしたいことがあります。人工関節の術後は、主治医と理学療法士の指示が優先です。動かしてよい範囲、避けたい動き、脱臼を招きやすい姿勢は、受けた手術の内容によって一人ひとり違います。ここは自己判断せず、必ず病院の指示に沿ってください。手術した部分が急に赤く腫れて熱をもつ、じっとしていてもズキズキと強く痛む、傷口から膿のようなものが出る、発熱が続く、ふくらはぎが急にむくんで痛む――こうしたときは感染や血のかたまりなど、早い対応が要る状態のことがあります。
この場合はまず、手術を受けた病院や主治医に連絡してください。転んで人工関節に強い衝撃が加わった、関節が外れたような感覚があるといったときも、すぐに受診が必要です。鍼灸は、これらが落ち着いて、医師が慢性の痛みやこわばりに治療の必要を認めてから、方針を確かめたうえで補助として組み合わせるもの。順番を守ることが、安心して回復を進める土台になります。
退院後のリハビリと鍼灸は、どこで役割が違うのか
退院してからは、病院やリハビリの計画に沿って足を動かし、少しずつ力を取りもどしていく時期が続きます。訪問鍼灸マッサージは、このリハビリに置きかわるものではありません。リハビリを続けるなかでどうしても残る筋肉のこわばりや動かしにくさ、痛みをやわらげ、体を動かしやすい状態に整える。あくまで補助の立場です。治療の主役は、手術と理学療法士が導くリハビリのほうにあります。
なお、同じ部位について、医療保険のリハビリと鍼灸を同じ時期に同時算定することはできない決まりがあります。どちらをどう組み合わせるのが合うかは、当院がケアマネジャーや主治医と相談しながら整えます。せっかく決心して受けた手術です。家での回復の時間も、無理のない形でていねいに支えていければと思います。
術後の足を診るとき、関節だけを見るわけではない
術後の足で伺うとき、確かめるのは手術した関節だけではありません。ずっとかばってきた反対側の足、お尻や太もも、ふくらはぎ、腰まわりまで、こわばりや力の落ちが広がっていることがよくあります。どの動きで痛むのか、どちらの足に頼って立っているのか、傷のまわりの状態はどうか。全体を診ながら、いま無理のない範囲で何ができるかを見きわめます。
実際に、痛む所だけでなく足全体を診るなかで、反対側の足の力の落ちに早めに気づけ、手を打つきっかけになったこともあります。もちろん出方には個人差がありますが、部分ではなく体全体を見わたす目が、術後の回復期には役立ちます。
鍼やお灸で、術後のこわばりにどう働きかけるか
鍼やお灸には、術後に固くなった太ももやお尻、ふくらはぎの筋肉をゆるめ、血のめぐりを促して、重だるさやこわばりを和らげる働きが期待できます。手術した部分そのものには、傷の治り具合と主治医の方針を確かめながら慎重にふれ、無理はしません。かわりに、そのまわりの筋肉や、かばって疲れた反対の足、腰を整えることで、動き出しの一歩が軽くなることをめざします。感じ方には個人差があります。
強い刺激で攻めたり、無理に可動域を広げようと引っぱったりはしません。その日の体の様子を見て加減していくのが、訪問の現場のやり方です。手技によるほぐしや機能訓練も、鍼灸に加えて追加料金なしで組み合わせられます。落ち着いた回復期に、体の負担にならない範囲で少しずつ整えていきます。
病院まで通わなくても、家で施術を受けられる
手術のあとは、体力が戻りきらないうちに通院を続けること自体が、大きな負担になりがちです。車の乗り降りがつらい、待合室で長く座っているのがしんどい、家族の付き添いの都合がつきにくい。こうした通院のハードルがなくなるのが、家に伺う施術のよいところです。国家資格をもつはり師・きゅう師が、暮らし慣れた家に伺います。
慣れた布団やベッドの上で、落ち着いて施術を受けられます。行き帰りで疲れきってしまうことがないぶん、そのエネルギーをそのまま回復に向けられます。動きが不安定な時期こそ、移動そのものが減る意味は小さくありません。
費用は医療保険で、介護保険の限度額とは別枠
費用は医療保険で計算します。自宅で1名が1回受けるときの総額は3,950円で、自己負担は1割の方でおよそ395円、2割の方でおよそ790円、3割の方でおよそ1,185円が目安です。たとえば1割の方なら、週1回で月およそ1,580円、週2回で月およそ3,160円、週3回で月およそ4,740円が目安になります。介護保険の区分支給限度額とは別の枠で使えるため、ほかのサービスの枠を圧迫しません。
別途の出張費(出張料・交通費)はかからず、エリア内はどこでも同額です。お支払いは月ごとにまとめてで、毎回、施術内容がわかる明細をお渡しします。内訳はあとからでも確認できます。保険を使うには医師の同意書が必要で、その手続きは当院がお手伝いします。要介護認定を受けていない方でも、医師が同意すれば利用できます。
手術した足を、家でどうならしていくか
施術と並行して、日々のちょっとした心がけも回復を後押しします。手術した足を冷やさないようにする、痛くない範囲で主治医やリハビリに教わった動きをこつこつ続ける、長く同じ姿勢で座り続けない、手すりや杖を上手に使って転倒を防ぐ。一気に頑張るより、できることを毎日少しずつ積み重ねていくほうが、結果として確かです。
ここまで動いてよいのか迷うことは、避けたい動きも含めて、まず主治医や理学療法士に確かめてください。そのうえで施術のときに気軽に聞いていただければ、当院もその日の状態を見ながらお答えします。無理のない線引きを一緒に探っていければと思います。
「手術は終わったから」で止めないために
東洋医学では、痛みや重だるさの背景に、血や気のめぐりの滞り、体の冷え、筋肉の緊張があると考えます。術後の体は、動かさなかった時間の影響でめぐりが滞りやすく、こわばりも生じやすい状態です。手術した部分だけを見るのではなく、腰やお尻、足全体のめぐりを整えることで、体が動きやすい土台をつくる。そこに鍼灸の補助が加わる意味があります。
せっかく手術で関節の痛みが減っても、こわばりや反対の足の疲れをそのままにして動かさずにいると、筋肉が弱り、ふたたび動きにくくなる流れに入りやすくなります。「手術は終わったから」で気持ちを切らず、家での回復の時間を体をならす時間として過ごすことが、その後の暮らしを支えます。慢性的な痛みやこわばりで通院がむずかしいときは、医師が必要と認めれば保険の対象になります。
よくある質問
退院してすぐでも受けられますか。
まずは主治医と理学療法士の指示が優先です。経過が落ち着き、医師が慢性的な痛みやこわばりに治療の必要を認めた段階で、保険による訪問鍼灸マッサージを受けられます。傷の治り具合や体の様子を見ながら、無理のない範囲で始めますので、開始の時期はご相談ください。
手術した関節に直接、鍼やお灸をしても大丈夫ですか。
手術部位は主治医の方針を優先し、傷の治り具合を見ながら慎重に扱います。中心になるのは、そのまわりの筋肉や、かばって疲れた反対の足、腰を整えることです。強い刺激や無理な可動域訓練はしません。感じ方には個人差があります。
費用はどのくらいかかりますか。
医療保険を使った場合、自宅で1名が1回受けるときの総額は3,950円で、1割負担の方でおよそ395円、2割の方でおよそ790円が目安です。1割の方なら週1回で月およそ1,580円、週2回で月およそ3,160円が目安になります。介護保険の限度額とは別の枠で使えます。
エリア内なら出張費はかかりますか。
別途の出張費(出張料・交通費)はかからず、対応エリア内はどこでも同額です。お支払いは月ごとにまとめてで、毎回、施術内容がわかる明細をお渡しします。内訳はあとからでも確認できます。
リハビリと鍼灸は一緒に使えますか。
同じ部位について、医療保険のリハビリと鍼灸を同じ時期に同時算定することはできない決まりがあります。どう組み合わせるのが合うかは、当院がケアマネジャーや主治医と相談しながら整えます。治療の主役はあくまで手術とリハビリで、鍼灸はそこに添える補助です。
要介護認定を受けていなくても利用できますか。
利用できます。保険を使うには医師の同意書が必要で、その手続きは当院がお手伝いします。要介護認定の有無にかかわらず、医師が同意すれば対象になります。介護保険の区分支給限度額とは別の枠なので、ほかのサービスの枠を使いません。
術後の回復に、本当に役立ちますか。
主治医の方針のもとで、術後に固くなったまわりの筋肉を和らげ、動かしやすさを補助することが期待できます。ただし手術やリハビリのような治療ではなく、あくまで回復期の補助です。出方には個人差があり、効果を断定はできません。
術後、いつごろから受けられますか。
回復の段階によって異なります。可動域や避けたい動きは手術の内容で違うため、始める時期は必ず主治医に確認してください。落ち着いた回復期に、医師の方針を確かめたうえで、無理のない範囲でご相談しながら始めます。


