
胃ろうや経鼻の管から栄養をとりながら在宅で過ごすご家族について、「体が固まってきた」「動かす機会が減って心配」と相談されるご家族はめずらしくありません。栄養がとれていても、体を動かす部分のケアがおろそかになると、こわばりは進んでしまいます。医療にお願いすべきことと、手技でできることを分けて整理します。
この記事のポイント
栄養や管の管理、飲み込みの評価は医師・看護師・歯科などの医療の領域です。寝て過ごす時間が長くなることで固くなった全身の筋肉を和らげ、関節の動く範囲を保つことは、訪問鍼灸マッサージがお手伝いできます。医師が施術を必要と認め、ご自身での通院がむずかしい状態であれば医療保険を使え、自己負担は1割の方で1回およそ395円が目安です。
経管栄養で過ごす方の体に、起きやすいこと
胃ろうや経鼻の管から栄養をとって在宅で過ごす方は、ベッドで横になって過ごす時間が長くなりがちです。動かす機会が減ると、全身の筋肉がやせて固くなり、肩や股関節、手足の関節の動く範囲がせまくなっていきます。すると、着替えやおむつ替え、体位を変えるといった日々の介助もしづらくなります。栄養がとれていても、体を動かす部分のケアがおろそかになると、こわばりが進んでしまうことがある。ここに、手技によるケアが役立つ場面があります。ALSや筋ジストロフィーのように進行していく病気の場合は、「ALS・筋ジストロフィーの方の体のケア」もどうぞ。
医療の領域と、施術の領域を分けて考える
はじめに、線引きをはっきりさせておきます。栄養剤の種類や量の調整、管の交換や管理、飲み込みの評価や訓練、誤嚥への対応。これらはすべて、医師や看護師、歯科・言語聴覚士などの医療の領域です。私たちが行うのは、こうした医療的ケアには手を出さず、寝て過ごすことで固くなった筋肉のこわばりを和らげ、関節を無理のない範囲で動かして、体を楽に保つことです。主治医や訪問看護と役割を分け合い、必要に応じて体の様子を共有しながら進めます。
こんなときは、先に主治医・訪問看護へ
発熱が続く、痰がらみやむせ込みが増えた、管の入り口の皮膚が赤くただれている、栄養剤を入れると苦しそうにする、急に元気がなくなった。こうしたときは、感染や誤嚥、皮膚トラブルなどが疑われ、まず主治医や訪問看護に相談すべき状態のことがあります。施術でどうにかするものではありません。うかがった際にこうした変化に気づいたときは、早めにお知らせし、必要なら受診をおすすめします。安全を最優先に関わります。
固くなった全身を和らげ、動く範囲を保つ
はりやお灸、手技で、こわばった肩・背中・腰・手足の筋肉を和らげ、関節を無理のない範囲でゆっくり動かします。これは、これ以上体を固くしない、今の動く範囲を保つ、という目的のケアです。体がゆるむと、介助のときに手足を動かしやすくなり、ご本人にとってもご家族にとっても負担が軽くなることがあります。強い刺激は用いず、その日の体調を確かめながら、やさしい範囲で行います。体の感じ方や変化のあらわれ方には個人差があります。栄養の管には触れず、体まわりのケアに徹します。
姿勢とめぐりを整え、床ずれの予防も後押し
寝て過ごす時間が長いと、同じ場所に圧がかかり続け、血のめぐりも滞りがちです。手技で筋肉を和らげ、めぐりをうながし、体位を変えやすい体づくりを支えることは、床ずれの予防を後押しすることにもつながります。すでにできた床ずれの処置は訪問看護などの医療の役割ですが、そのまわりの体のケアでお手伝いできることがあります。ご家族には、体の向きをこまめに変えるコツや、負担の少ない介助の姿勢もお伝えします。
寝たまま・そのままの姿勢で受けられる
施術は、ベッドで寝たまま、あるいは楽な姿勢のままで受けられます。体を起こしたり、特別な準備をしたりする必要はありません。栄養を入れている時間帯を避ける、体調の良い時間に合わせる、といった調整もできますので、ご家庭のふだんの流れに合わせて伺います。うかがう時間や姿勢について、心配な点があれば、あらかじめお聞かせください。ご本人が少しでも楽に過ごせる形を一緒に考えます。
注入の時間とは、重ならないようにします
栄養剤を注入している最中や、そのすぐあとは、体を動かしたり姿勢を大きく変えたりしないほうがよい時間です。ですから、うかがう時間を決めるときに、注入の時間帯をお聞きして、そこと重ならないように組みます。
注入のあと間隔をあけてからうかがう、午前と午後の注入のあいだに入る、といった形です。日によって時間が前後することもありますので、その日の状況は、うかがったときにひとこと教えていただけると助かります。無理な時間に合わせるより、体が落ち着いている時間に短く入るほうが、ご本人にとって楽です。
訪問看護やヘルパー、入浴の予定と重ならないようにすることもできます。誰がいつ入るかの調整については、「多職種連携|訪問看護・訪問診療との情報共有」もご覧ください。
管の入り口とそのまわりには、触れません
おなかの胃ろうの入り口、経鼻の管とテープで留めてある鼻や頬のまわり。ここには触れません。近くをさわるときも、管が引っぱられない位置に体を置き、タオルのかけ方にも気をつけます。
服やタオルをずらすときに管が突っぱらないか、姿勢を変えたあとに管の向きが無理になっていないか。終わるときには、始めたときと同じ状態に戻っているかを確かめてから帰ります。
皮膚に赤みやただれを見つけたときは、こちらで手当てはしません。ご家族と訪問看護にお伝えし、必要なら受診をおすすめします。皮膚の処置は医療の役割です。
費用と保険のこと
寝て過ごすことにともなう全身の慢性的な筋肉のこわばりや痛みについて、医師が施術を必要と認め、通院がむずかしいと判断されれば、はり・きゅうの医療保険が使えます。自己負担は1割の方で1回およそ395円、2割で790円が目安です。追加の出張費はかからず、お支払いは月ごとにまとめる形で、受けた回数と内容を記した明細を月ごとにお渡しします。長く続くケアだからこそ、家計に響きにくいことを大切にしています。
声にならない反応にも、目を向けて
経管栄養で過ごす方の中には、言葉でのやりとりがむずかしい方もいます。それでも、体に触れると表情がやわらいだり、力が抜けたりと、心地よさは体を通して伝わってきます。私たちは、そうした声にならない反応にも目を向けながら、その方が少しでも安らげる時間になるよう関わります。毎回同じ担当者が続けて伺うので、その方なりの反応のくせにも気づきやすく、ご家族にも様子をお伝えできます。
始めるまでの流れ
はじめに、お電話などで、今の体の状態や困っている点、かかっている主治医や訪問看護をお聞かせください。医療との役割分担を確かめ、体まわりでできることを具体的にご説明します。医師の同意を得る手続きや、訪問看護との連携もお手伝いします。まずは相談だけ、という段階でもかまいませんので、気軽にお問い合わせください。
よくある質問
胃ろうでも訪問鍼灸マッサージは受けられますか?
はい。栄養や管の管理は医療にお任せし、寝て過ごすことで固くなった全身の筋肉を和らげ、関節の動く範囲を保つケアを行います。医師の同意があり通院がむずかしければ、医療保険で受けられる場合があります。
栄養の管に触れて大丈夫ですか?
管には触れません。管の入り口を避け、体まわりの筋肉や関節のケアに徹します。管理や交換は主治医・訪問看護の役割です。
むせ込みが増えてきたのですが
誤嚥などが疑われることがあります。まず主治医や訪問看護にご相談ください。飲み込みの評価や訓練は医療・言語聴覚士などの領域です。
寝たきりでも受けられますか?
はい。ベッドで寝たまま、楽な姿勢のまま受けられます。体調の良い時間帯に合わせて伺います。