
ALSでは、力が入らなくなっても、触られた感じや痛みはこれまでどおり感じておられます。そこを見落とすと、つらさに気づけません。ここでは、進行する病気のある方に家で続けられる体のケアと、安全のために決めていることを整理します。
この記事のポイント
ALSや筋ジストロフィーといった進行性の神経筋疾患そのものは、はり・きゅうの療養費の対象ではありません。ただ、動きにくさに伴って出てくる肩や腰の痛み、神経痛などの病名で医師の同意があれば、医療保険を使って自宅で施術を受けられます。1回の自己負担は1割の方でおよそ395円。呼吸や飲み込みの状態に合わせて姿勢と時間を変え、疲れを残さない量にとどめます。
病気そのものは保険の対象になりますか
ALS(筋萎縮性側索硬化症)や筋ジストロフィー、脊髄性筋萎縮症といった病名で療養費が認められることはありません。療養費は決められた病名に対して支払われる仕組みで、進行性の神経筋疾患はそこに含まれていないためです。
では受けられないのかというと、そうではありません。動きにくさが増すと、同じ姿勢が続く肩や腰、支える側にまわった腕に痛みが出てきます。それが腰痛症や五十肩、頸肩腕症候群、神経痛にあてはまり、主治医が同意書を書いてくださった場合に、医療保険での施術が始められます。
同意書をお願いするのは、ふだん診てもらっている神経内科やかかりつけの先生です。書式はこちらでご用意し、お願いの仕方もお伝えします。難病の医療費助成を受けている方は、助成の範囲によって自己負担が変わることがありますので、受給者証をお見せいただければ保険者に確認します。
感覚は残っているからこそ、痛みははっきりつらい
見落とされやすいのですが、ALSでは感覚の神経は原則として障害されません。力が入らないだけで、触られた感じも痛みも、これまでどおりはっきり感じておられます。「動かないから痛みも鈍いだろう」と考えてしまうと、つらさに気づけません。
自分で寝返りが打てなくなると、肩の後ろ、腰、股関節の外側、かかとに体重がかかり続けます。じっとしていること自体が痛みの原因になっていく。訪問での施術は、この動けないことで生まれる痛みに手を当て、体位を変えたときに楽になるところを探していく仕事です。病気の進行そのものを止めたり遅らせたりするものではなく、楽になり方にも個人差があります。
強くもむ、頑張らせる、はしません
進行性の筋疾患では、筋肉を使いすぎたぶんの回復が追いつかず、疲れが二日三日と抜けないことがあります。ですから負荷をかけた運動や、力を入れてもらう抵抗運動は行いません。関節も、こちらがゆっくり支えて動かす他動運動が中心です。
日によって調子は変わります。眠れなかった翌日、暑さがこたえた日、通院で疲れた日。そういう日は時間を短くしたり、体位を変えずに済む範囲だけにしたりします。施術のあとにだるさが残らない量を毎回さぐるのが、長く続けるこつです。
呼吸が弱ってきたら、姿勢と時間を変える
呼吸に使う筋肉の力が落ちてくると、仰向けが苦しくなります。おなかの臓器が横隔膜を押し上げるためで、平らに寝かせただけで息が浅くなる方もおられます。ベッドの背を起こしたまま、あるいは横向きのままで施術することが多くなります。
マスク型の人工呼吸器を使っておられる方は、外す時間をこちらの都合で作りません。外してよいかは主治医と訪問看護の指示に従います。装着したままでも背中や腕、脚には手が届きます。胸やおなかを強く押さえることもせず、途中で休憩をはさんで区切ります。
飲み込みや声の変化があるときに気をつけること
のどの筋肉から弱っていくタイプでは、唾液が飲み込みにくくなり、わずかな体位変換でむせることがあります。首の前側を触るときはのどぼとけのあたりを避け、上を向く角度も浅くします。訪問の時間帯も、吸引や食事の直後を外して組みます。
むせが始まったらすぐに手を止め、体を起こして落ち着くまで待ちます。声が出しにくくなってきた方には、痛みを声で答えていただくやり方が合いません。表情、まばたき、呼吸の乱れを見ながら、こちらから二択でうかがいます。
こわばりと足首の変形を、毎日の範囲で防ぐ
動かさない期間が長くなると、関節は動かせる範囲のまま固まります。とくに足首は布団の重みで爪先が伸びた姿勢が続き、そのまま戻らなくなることがあります。こうなると立つ練習も、車いすへの移り方も難しくなります。
足首、膝、股関節、肩、手指を、痛みの手前までゆっくり動かします。勢いや反動は使いません。不動が長いと骨ももろくなっているためです。クッションや装具の当たり方も見て、押しても白くならない赤みがあれば、その場でご家族と訪問看護に伝えます。
伝わりにくさは、待つ時間で補えます
話しにくさが出てくると、言いかけたことを周りが先に言ってしまいがちです。悪気はなくても、繰り返されると伝えるのをあきらめてしまう方がおられます。時間がかかっても最後まで待つ。文字盤や視線入力の機器をお使いなら、使い方を教えていただきます。
体は動かなくても、判断する力や感じ取る力は保たれていることがほとんどです。子ども扱いをしたり、ご本人の頭ごしにご家族とだけ話を進めたりはしません。施術の内容も、まずご本人にお伝えしてから触れます。
ほかのサービスとの役割分担はどうなりますか
病気の治療と全身の管理は主治医、日々の医療的なケアは訪問看護、呼吸のリハビリや生活動作の組み立ては訪問リハビリの領域です。私たちが受け持つのは、そこにのりきらない痛み、こわばり、めぐりの悪さへの手当てにあたります。
ひとつ注意点があります。同じ部位について、医療保険のリハビリテーションとはり・きゅうの施術を重ねて算定することはできません。訪問リハビリが医療保険で入っている場合は、始める前に部位や時期を整理します。介護保険のリハビリやデイサービスは別枠で、併用できます。
費用と、始めるまでの段取り
自宅にうかがって1回の施術を行った場合、総額は3,950円です。ここから保険が使えますので、1割負担の方でおよそ395円、2割負担の方で790円が自己負担の目安になります。表示の金額のほかに出張料などを別にいただくことはなく、お住まいの場所で金額が変わることもありません。
お支払いは月ごとにまとめていただき、その月の施術内容がわかる明細をお渡しします。介護保険の限度額とは別の枠組みですので、ヘルパーや訪問看護の回数を削って調整していただく必要はありません。
うかがえる範囲は決まっています。大阪府北部では豊中市・吹田市・茨木市・高槻市・箕面市・摂津市・池田市、兵庫県側は尼崎市と伊丹市、大阪市内では淀川区・東淀川区・都島区・北区・旭区。この14の市と区が対象です。ご連絡をいただいてから体の状態をうかがい、同意書のお願いに進み、その後に初回の日程を決めます。
こんなときは、施術より先に受診を
朝起きたときに頭が重い、日中に強い眠気がある、横になると息苦しい。こうした変化は、夜のあいだに呼吸が浅くなっているサインのことがあります。むせる回数が増えた、痰の色が変わった、熱が下がらないというときは、誤嚥性肺炎を疑う場面です。
筋ジストロフィーの一部では、心臓の筋肉にも影響が及ぶことがあります。動悸、脈の乱れ、立ち上がったときに目の前が暗くなるといったことがあれば、循環器の検査を受けてください。数日のうちに力の入りにくさが急に進んだときや、押しても白くならない赤みが出たときも、受診が先です。
よくある質問
ALSでも保険で受けられますか?
病名そのものは対象になりませんが、動きにくさに伴う肩や腰の痛み、神経痛などについて主治医が同意書を書いてくださった場合に、医療保険で受けられます。同意書の手続きは当院がお手伝いします。
筋力トレーニングもしてもらえますか?
負荷をかけた運動や、力を入れてもらう抵抗運動は行いません。使いすぎた分の回復が追いつかず、疲れが数日残ることがあるためです。こちらが支えて動かす他動運動が中心になります。
人工呼吸器をつけたままでも受けられますか?
受けられます。外す時間をこちらの都合で作ることはありません。装着したままでも背中や腕、脚には手が届きます。外してよいかは主治医と訪問看護の指示に従います。
訪問リハビリと一緒に使えますか?
同じ部位について医療保険のリハビリと重ねて算定することはできません。始める前に部位や時期を整理します。介護保険のリハビリやデイサービスは別枠で併用できます。