気管切開や在宅人工呼吸をしているご家族へ|吸引と体の向きを守りながら、こわばりを手当てする

気管切開をしている、人工呼吸器を使っている。それだけを理由に訪問の鍼灸をお断りすることはありません。ただし、触れない場所と変えない姿勢を最初に決めておく必要があります。この記事では、呼吸を守りながら体のこわばりをどう手当てするかをお伝えします。

この記事のポイント

気管切開や在宅の人工呼吸器そのものは、はり・きゅうの療養費の対象ではありません。ただ、動かせない時間が長くなることで出てくる肩や腰、脚のこわばりは、腰痛症・五十肩・頸肩腕症候群・神経痛などの病名で医師の同意があれば保険で受けられます。カニューレと首まわりには触れず、吸引の時間を外し、いつもの体の向きと上体の角度を変えないまま行います。1回の総額は3,950円、1割負担で395円です。

気管切開をしていても、体のケアは受けられます

ただ、保険で受けられるのは呼吸そのものへの施術ではありません。療養費の対象になるのは、腰痛症・五十肩・頸肩腕症候群・神経痛といった痛みやこわばりの病名で、かかりつけ医が施術を必要と認めた場合です。

ご本人が自分で医療機関へ通うことが難しく、体の痛みやこわばりが続いている。この2つが重なるときに、同意書をいただいて始めます。書面のやりとりは当院から主治医へ行いますので、ご家族が診察室で経緯を一から説明する必要はありません。呼吸の管理が必要になってきた方のケアは、「ALS・筋ジストロフィーの方の体のケア」でも書いています。

初回にうかがう、呼吸まわりのこと

最初にお聞きするのは、気管切開だけなのか呼吸器を併用しているのか、カフはあるのか、カニューレの交換は誰がいつ行っているのか、といったことです。あわせて、たんの吸引が一日に何回くらいで、どの時間帯に増えるのかもうかがいます。ここが分かると、訪問の枠と施術の順番が決められます。

声を出せる方か、文字盤や筆談でやりとりする方かも、初回に確かめます。声で「そこは痛い」と言えない前提で進めるほうが安全なので、痛みの伝え方を先に決めてから体に触れます。手を挙げる、まばたきを2回。それだけで足ります。

首まわりとカニューレには、手も鍼もお灸も入れません

気管孔とカニューレ、それを留めている固定ひものまわりは、触れない場所として最初から外します。首の前をもむ、首を強くひねる、あごを大きく引かせるといった動きもとりません。カニューレの向きが変わると、痰が引きにくくなったり、ご本人が急に苦しくなったりするためです。

首から胸の上は、ガーゼや固定ひもで皮膚が蒸れやすい場所でもあります。ここにお灸を置くことはせず、温めたいときは肩甲骨の内側や肩の後ろなど、気管孔から離れたところを選びます。

体の向きと上体の角度は、いつもの形のままで

うつ伏せは原則としてとりません。上体を起こしている方の角度を、施術がしやすいからといって平らへ戻すこともしません。角度を下げると呼吸が浅くなったり、注入したものが逆流したりすることがあります。横向きにするときは、ご家族や訪問看護がふだんしている向きと同じ形にそろえます。

向きを変える前には、回路と配線の長さを目で追います。呼吸器の回路、酸素のチューブ、パルスオキシメーターのコード。どれか一本でも引っぱられると機器の警報が鳴り、ご本人が驚いて体を固くします。動かすのは、ゆるみを作ってからです。

吸引と重ならない時間に、訪問の枠を決めます

訪問の時間は、吸引が立て込む時間帯と、経管栄養の注入直後を外して決めます。曜日と時刻を固定しておくと、ご家族もその日の段取りを組み立てやすく、こちらも前回との違いに気づきやすくなります。

施術の途中でむせ込みが出たら、そこで手を止めます。吸引が済んで呼吸が落ち着いてから再開し、その日は量を減らして終えることもあります。吸引そのものはご家族や訪問看護が行い、当院が行うことはありません。

鍼とお灸は、場所と数をしぼります

鍼は首の前面と胸の上部には使わず、肩甲骨のまわり、腰、脚といった体の後ろ側と下半身が中心になります。本数も多くはしません。咳やむせで体が動くことを見込んで、置いたまま長く待つやり方はとりません。

お灸は、熱さを言葉で伝えられるかどうかで扱いを変えます。伝えられない方には、置く場所と個数を先に伝えたうえで、こちらが指で温度を確かめながら早めに取ります。感覚の鈍い部位やむくんでいる部位には置きません。

硬くなりやすいのは、肩と胸のまわり、そして脚です

吸引のたびに肩をすくめる、上体を起こした姿勢が長く続く、咳き込むときに力が入る。この繰り返しで、肩の前面と肩甲骨の間、胸のまわりが硬くなっていきます。胸まわりがこわばると、体を起こしたときの姿勢も崩れやすくなります。

下半身には、動かさない時間の長さがそのまま出ます。股関節、膝の裏、足首は、そのままにしておくと伸びにくくなります。痛みの手前までの範囲でゆっくり動かし、かかとや仙骨に、押しても白くならない赤みが出ていないかを毎回見ます。

訪問看護やご家族と、やり方をそろえておく

触れてよい範囲、体の向き、合図の決め方は、その日いた人だけが知っている状態にしません。訪問看護やヘルパー、ケアマネジャーにも同じ内容が伝わるように、気づいたことは連絡ノートへ書き残します。誰が来ても同じ扱いになっていることが、ご本人の安心につながります。

医療機関でのリハビリを受けている場合、同じ部位について医療保険のリハビリと鍼灸を同時に算定することはできません。どちらを先にするかは主治医とご相談ください。介護保険の訪問リハビリやデイサービスとは別の枠なので、そのまま続けていただけます。

費用と、うかがえる地域のこと

費用は時間ではなく回数で決まります。1回あたりの総額が3,950円で、そこから割合に応じて、1割の方は395円、2割の方は790円、3割の方は1,185円をご負担いただく形です。出張料のような追加はなく、お住まいがどこであっても同じ金額になります。お支払いは月ごとにまとめていただき、その月の施術内容が分かる明細をお渡しします。

うかがう先は、豊中市、吹田市、茨木市、箕面市、摂津市、池田市、尼崎市、伊丹市と、大阪市の淀川区、東淀川区、都島区、北区、旭区。この14の市と区が範囲です。医療保険で行うため、介護保険の支給限度額とは別枠になり、訪問看護やヘルパーの回数を削らずに足せます。

呼吸に次のような変化が出たら、施術より先に連絡を

カニューレが抜けた、抜けかけている、いつものように入らない。このときは施術どころではありません。訪問看護の緊急連絡先か主治医へすぐに連絡し、様子によっては救急要請をしてください。呼吸器の警報が鳴りやまない、吸引しても痰が引けず息が荒い、唇や爪の色が悪いときも同じです。

数日のうちに痰の色が黄色や緑に変わる、量が増える、においが変わる、熱が続く。これらは肺炎のサインとして早めにご相談ください。気管孔のまわりが赤くただれる、出血がある、首や胸の皮膚がふくらんで指で押すとぷつぷつと音がする(皮下気腫)ときも、その日のうちに医療者へ伝えてください。

よくある質問

気管切開をしていても受けられますか?
受けられます。呼吸そのものへの施術ではなく、動かせない時間が長くなって出てくる肩や腰、脚のこわばりに対して、医師の同意のもとで行います。

首やカニューレのまわりも触りますか?
触れません。気管孔とカニューレ、固定ひものまわりは触れない場所として最初から外します。首を強くひねる動きもとりません。

うつ伏せにされますか?
いたしません。上体を起こしている角度も、施術の都合で平らに戻すことはしません。横向きにするときは、ふだんご家族や訪問看護がしている向きにそろえます。

吸引はしてもらえますか?
当院では行いません。吸引はご家族や訪問看護の役割です。訪問の時間は、吸引が立て込む時間帯を外して決めます。

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