
「食べても味がしない」「何を出してもおいしくないと言う」。ご家族からそう聞くことがあります。ただ、そこで起きていることは味覚だけの話ではないかもしれません。「年のせい」と片づける前に確かめたいことを整理します。
この記事のポイント
「年のせいで味が落ちた」と片づける前に、確かめたいことがあります。味の感じ方の変化は、においが分かりにくくなっていること、口の乾き、飲んでいる薬、鼻の病気などが重なって起きます。原因によって手立てが変わるため、耳鼻咽喉科や主治医に診てもらうのが先です。当院は食が細くなった時期に落ちる体力とこわばりを手当てし、訪問で気づいたことを記録してお伝えします。
なぜ、味の感じ方が変わるのか
味を感じ取る細胞は、年齢とともに数が減り、入れ替わる速さも落ちていきます。ただ、それだけで急に「何を食べても同じ味」にはなりません。口の乾き、飲んでいる薬、鼻の通り、亜鉛などの栄養の不足が重なったときに、はっきりした変化として表に出てきます。
いくつも重なっているぶん、一つ直せば終わりという形にはなりにくいものです。裏を返せば、手をつけられる部分がいくつか残っているということでもあります。たとえば口の乾きや薬の作用は、気づけば相談できる相手がはっきりしています。まずは何が起きているのかを分けて見ていきます。
「味がしない」の多くは、においの問題
私たちが味と呼んでいるものの大半は、鼻へ抜けるにおいで感じ取っています。食べ物を口に入れたときに立ちのぼるにおいが届かないと、甘い・しょっぱいは分かるのに「おいしくない」という言い方になります。ご家族が味覚の話として相談されるとき、実際には嗅覚のほうが先に落ちていることがよくあります。
鼻づまりや長く続く鼻水、副鼻腔の炎症が背景なら、耳鼻咽喉科で手立てがあります。一方で、においの分かりにくさはパーキンソン病や認知症の早い時期にも現れることがあり、年齢のせいと決めてしまわないほうがよい変化です。
先に医療機関へ相談したい変化
次のような場合は、体の手当てより受診が先です。片側の鼻だけがつまって血の混じった鼻水が続く、ある日を境にまったく分からなくなった、口の中に白い部分や治りきらない傷がある、熱が下がらない、半年のあいだに体重が大きく減った。いずれも原因の見極めが必要な状態です。
味やにおいの変化と同時に、ろれつが回らない、顔の片側がゆがむ、片腕に力が入らないという様子があれば救急です。頭を打ったあと数週間してからぼんやりする、ふらつく、頭痛が強くなる場合も、慢性硬膜下血腫の可能性があるためすぐに受診してください。
口の乾きと、飲んでいる薬のこと
唾液が減ると、食べ物の味の成分が溶け出しにくくなり、味が薄く感じられます。水分の不足、口を開けたまま眠る習慣に加えて、多くの薬には口が乾くという作用があります。
薬の飲み始めや量が変わった時期と、味の変わった時期が重なることもあります。当院は「この薬のせいです」と決めることはしませんし、自己判断でやめるのもおすすめできません。いつから変化があったか、そのころ薬に変更があったか、という時間の並びを記録して、主治医や薬剤師に伝える材料にしていただきます。
家で見ておくと、診察で伝わりやすいこと
受診の場で役に立つのは、解釈ではなく事実のほうです。いつごろからか、甘い・しょっぱい・苦いのどれが分かりにくいか、においはどうか、片側だけか、口は乾いているか、体重は何キロ減ったか。この6つを書き留めておくと、話が早く進みます。
訪問の日には、ご本人の言い方をそのまま連絡ノートに残します。「味がしない」という言葉ではなく「今日はいらない」と箸を置く形で出ることもあるため、食卓での様子もあわせてお伝えします。私どもが原因を言い当てるわけではなく、日付と、その日のご本人の言葉を並べてお渡しするところまでです。
食が細くなると、体のどこに出てくるのか
おいしく感じられない日が続くと食べる量が減り、体重と筋肉が落ちていきます。動く力が落ちれば座っている時間が延び、股関節の前面、膝の裏、ふくらはぎから足首が縮んで硬くなります。
うつむいて過ごす時間が増えると、首の前と胸の前が縮み、肩甲骨のまわりが張ってきます。ここまで来てから、立ち上がりにくさや肩の重さという形でご相談をいただくことが多くなります。味の話とは別の相談に見えても、たどっていくと同じ時期から始まっていることがあります。
訪問でできること、しないこと
手当ての中心は、食事の姿勢を支える体のほうです。あごを引いて座れるよう首の前と胸の前をゆるめ、足の裏が床につく姿勢を保てるよう股関節まわりと足首を整えます。楽に座れる時間が延びることは期待できますが、感じ方には個人差があり、医療機関の診察と治療が土台になります。
口の中には触れません。口腔の清掃は歯科や訪問看護、ヘルパーの領分ですし、刻みやとろみといった食事の内容は歯科医師や管理栄養士、言語聴覚士が決めます。においに敏感になっている時期はお灸の煙や香りが負担になることがあるので、使う場所と数を先にお伝えし、食事の直前直後を外して枠を取ります。
保険で受けられるかと、ご負担の額
「味がしない」は病名ではないため、それだけで保険の対象にはなりません。腰痛症や五十肩、神経痛といった体のつらさについて医師の同意書が出れば、はり・きゅうの療養費で受けられます。書類の段取りと、有効期間が来たときの更新の案内は、こちらから行います。
施術の費用は、介護保険の限度額とは別の枠で計算されます。デイサービスや訪問リハビリに使える分を削ることはありませんし、そちらを減らして枠を空ける必要もありません。ただし同じ部位について、医療保険のリハビリと鍼灸を重ねて算定することはできない決まりです。お支払いは月ごとにまとめていただき、ご負担いただく額は1割の方で1回395円、2割の方で790円。総額3,950円の、それぞれの割合にあたる分です。
うかがえる範囲には限りがあります。兵庫県は尼崎市と伊丹市の2市、大阪市は淀川区・東淀川区・都島区・北区・旭区の5区、そのほかは豊中市・吹田市・茨木市・高槻市・箕面市・摂津市・池田市。この13から外れる場所へは足を運べません。範囲の中でしたら、出張料などを別にいただくことはなく、お住まいの場所によって金額が上下することもありません。
よくある質問
味がしないのは年のせいですか?
年齢だけで急に「何を食べても同じ味」にはなりません。口の乾き、飲んでいる薬、鼻の通り、栄養の不足が重なって出てくることが多いので、まず耳鼻咽喉科や主治医に診てもらってください。
鍼灸で味覚は戻りますか?
味覚そのものを戻す施術ではありません。食が細くなった時期に落ちていく体力と、うつむいた姿勢で固くなった首や胸の前を手当てするのが役割です。
受診のとき、何を伝えればいいですか?
いつごろからか、甘い・しょっぱい・苦いのどれが分かりにくいか、においはどうか、片側だけか、口は乾いているか、体重は何キロ減ったか。この6つを書き留めておくと話が早く進みます。
お灸のにおいが気になりそうです
においに敏感になっている時期は、使う場所と数を先にお伝えし、食事の直前直後を外して枠を取ります。つらいときは使わずに進めることもできます。