
聞こえにくい方は、ご自分から不調を訴えにくく、痛みが見過ごされやすくなります。施術の最中はこちらの問いかけも届きません。耳が遠いご家族に訪問の施術を受けていただくときに、伝え方をどう組み立てているかをお伝えします。
この記事のポイント
難聴そのものは、はり・きゅうの療養費の対象ではありません。腰痛症や五十肩、頸肩腕症候群、神経痛などの病名で医師の同意があれば、医療保険で施術を受けられます。自己負担は1割の方で1回約395円です。聞こえにくい方には、正面から短い言葉で伝える、筆談や指さしで選んでもらう、手を挙げる合図を決めておく。こうした段取りを組んでから施術に入ります。
耳が聞こえにくいと、保険では受けられないのですか
耳が遠くなったことそのものは、はり・きゅうの療養費の対象になりません。保険で受けられるのは、腰痛症、五十肩、頸肩腕症候群、神経痛、リウマチ、頸椎捻挫後遺症といった病名について、医師が鍼灸での施術を必要と認め、同意書を書いた場合です。聞こえについての治療は耳鼻咽喉科が土台になります。
実際には、聞こえにくい方が肩や腰の痛みをあわせて抱えていることはめずらしくありません。その痛みに医師の同意があれば、保険で施術を受けられます。難聴を治すためのケアではなく、痛みやこわばりへの手当てであるという線引きは、最初にご家族へお伝えしています。
最初の訪問で確かめること
初回は施術より先に、聞こえ方をうかがいます。左右のどちらが聞き取りやすいか、補聴器を使っているか、大きな声より低めの声のほうが届くか、口の形を見て言葉を読み取っているか。ご本人に確かめ、答えにくいところはご家族に補っていただきます。
聞こえにくさの中身は人によって違います。音量が足りない方もいれば、音は届いても言葉として分かれない方もいます。後者に大声を出しても伝わりません。ゆっくり、短い文で、一度に一つのことだけ伝えるほうが届きます。
声が届かないとき、痛みはどう伝えてもらうか
施術の最中は、こちらの問いかけが届かないことがあります。返事に頼らず、体の反応から読み取ります。眉が寄る、息を止める、腕を引く、片側だけ急に硬くなる。そうした変化が出たら手を止め、そこで確かめます。
確かめ方は選べる形にします。「痛い」「大丈夫」と書いた紙を指さしてもらう、痛みの強さを指の本数で示してもらう、といった具合です。あいまいな聞き方は答えにくく、遠慮して「大丈夫」と返ってくることもあるため、二択にしておきます。
施術中の合図をあらかじめ決めておく
うつ伏せになったり、タオルで肩まで覆ったりすると、声はいっそう届きにくくなります。そこで施術に入る前に合図を決めます。やめてほしいときは手を挙げる、こちらから知らせるときは肩を二回たたく、といった単純な取り決めで足ります。
背後から急に触れることはしません。視界に入ってから触れる場所を手で示し、それから触れます。体の向きを変えるときや部屋を移るときも、動かす前に一声かけます。見えず聞こえない状態で不意に触れられる驚きは、体をこわばらせてしまいます。
補聴器はつけたまま受けてもよいですか
つけたままで差し支えありません。やり取りの必要がある間は、つけていただいたほうが安全です。ただ、横向きやうつ伏せで耳が枕に当たると、高い音が鳴ったり耳が痛くなったりします。その姿勢のときだけ外し、決めておいた合図に切り替えます。
外した補聴器は、ご家族と決めた同じ場所に置きます。小さく、寝具にまぎれると見つけにくいためです。施術で使うクリームが手についたまま触らないようにも気をつけています。終わったあと、つけ直したかどうかを毎回確かめます。
聞こえにくさの陰で、体はどこに力が入っているか
聞き取ろうとして体を前に出す姿勢が続くと、首の後ろから肩、背中の上のほうにかけて力が入り続けます。テレビや会話のたびに顔を近づける方は、あごが前に出たまま固まり、首の付け根が硬くなりやすくなります。
会話が減ると、外出や人と会う機会も減っていきます。動かさない時間が長くなれば、肩も腰も股関節も硬くなります。施術ではそのこわばりに手を当てながら、日中に体を起こしている時間をどう作るかを、ご家族と一緒に考えます。
家族や他の職種との情報の共有
訪問のたびに気づいたことは、口頭で伝えるだけでなく書いて残すようにしています。聞こえにくい方はご自分から不調を訴えにくく、痛みが見過ごされやすいためです。「右肩に触れると腕を引く動きがあった」というように、事実をそのまま書きます。
ケアマネジャーや訪問看護の方とも、伝え方の工夫は共有しておくと役に立ちます。合図の決めごとや、どちら側から話しかけると届くかは、誰が来ても同じにできる情報だからです。聞こえの状態が変わってきたと感じたときは、かかりつけの医師にお伝えください。
費用と保険のしくみ
費用は1回3,950円が総額で、1割負担の方は約395円、2割負担の方は790円が自己負担の目安です。表示の料金のほかに出張料などを別にいただくことはなく、お住まいの場所で金額が変わることもありません。お支払いは月ごとにまとめていただき、施術内容が分かる明細をお渡しします。
医療保険で行うため、介護保険の支給限度額とは別枠です。デイサービスやヘルパーの枠を削らずに足せます。訪問できる地域は決まっていて、豊中市・吹田市・茨木市・高槻市・箕面市・摂津市・池田市、尼崎市・伊丹市、大阪市の淀川区・東淀川区・都島区・北区・旭区。この14の市と区にうかがっています。
こんなときは耳鼻咽喉科へ(受診の目安)
片耳が急に聞こえなくなった、耳がふさがった感じが数日続く、というときは早めに耳鼻咽喉科を受診してください。時間が経つほど手を打ちにくくなる病気があります。耳だれや耳の痛み、発熱をともなう場合も同じです。
強いめまいと吐き気が同時に出たとき、頭を打ったあとに聞こえ方が変わったときも受診が必要です。なお、返事がかみ合わない状態が続くと認知症と受け取られることがありますが、聞こえていないだけということもあります。判断の前に、一度聞こえの検査を受けておくと安心です。
申し込みから施術が始まるまで
お問い合わせをいただいたら、まずご本人の状態と、どんな伝え方なら届くのかをうかがいます。次に、かかりつけの医師に同意書を書いていただく手続きに入ります。この書類のやり取りは当院がお手伝いしますので、ご家族が病院へ何度も足を運ぶ必要はありません。
同意が得られたら、曜日と時間を決めてうかがいます。訪問の時間帯をそろえておくと、ご本人が身構えずに済み、ご家族も予定を立てやすくなります。合図や伝え方は続けるなかで見直し、そのときに合う形へ整えていきます。
よくある質問
耳が遠くても施術を受けられますか?
受けられます。初回に聞こえ方をうかがい、合図の決めごとをしてから施術に入ります。難聴そのものは保険の対象になりませんが、肩や腰の痛みについて医師の同意があれば医療保険で受けられます。
補聴器はつけたままでいいですか?
つけたままで差し支えありません。横向きやうつ伏せで耳が枕に当たるときだけ外し、決めておいた合図に切り替えます。終わったあと、つけ直したかどうかを毎回確かめます。
痛いときはどう伝えればいいですか?
手を挙げていただくと、すぐに手を止めます。「痛い」「大丈夫」と書いた紙を指さす、痛みの強さを指の本数で示す、といった形も使います。あいまいな聞き方はせず、二択にしています。
家族が立ち会わないと難しいですか?
ご本人だけでも進められます。初回は伝え方を確かめたいので、できればご家族にも同席いただけると助かります。決めた合図はケアマネジャーや訪問看護の方とも共有します。