
入れ歯が当たって痛む、食べられるものが減ってきた。そう聞いても、どこに相談すればよいのか分かりにくいものです。「年だから仕方ない」で終わらせずに、打てる手を分けて考えてみます。
この記事のポイント
入れ歯が当たる、外れる、噛めない。調整や作り直しは歯科の仕事で、通院がむずかしければ訪問歯科診療という方法があります。当院が受けもつのは、片側だけで噛むくせやうつむいた姿勢で固くなった、あごから首、肩にかけての手当てです。保険は腰痛症や五十肩、神経痛といった病名で医師の同意があれば使え、1回の負担は1割の方で395円です。当たった傷が2週間治らないときは、施術より先に歯科へ。
なぜ、合っていた入れ歯が合わなくなるのか
10年近く同じ入れ歯で不自由なく過ごしてきた方が、ある時期から「当たって痛い」「落ちてくる」と言い出すことがあります。歯を失ったあとの歯ぐきとあごの骨は、そこで形が止まらず、年単位でゆっくりやせていきます。入れ歯の内側は作ったときの形のままですから、土手との間にすき間ができ、同じ物を入れているのに当たり方が変わってくる。体重が数キロ落ちた時期や入院して寝ていた時期に、急に合わなくなったという方も多いです。
やっかいなのは、そこから先が連鎖することです。痛いから外す、やわらかい物ばかりになる、噛む力と体重が落ちる、その減り方がまた当たりを変える。「年だから仕方ない」と片づけられがちですが、歯科で診てもらうこと、食べ方を整えること、固くなった体を手当てすることは、それぞれ別に手が打てます。
入れ歯を直すのは歯科。通えないときは訪問歯科診療という方法がある
はじめにはっきりさせておきます。入れ歯の調整も、内側の裏打ちも、作り直しも、すべて歯科医師の仕事です。当院が入れ歯をお預かりして削ったり、当たる場所を自分たちの判断で直したりすることはありません。ご家族がやすりや接着剤で手を加えると、かえって当たりが強くなったり割れたりします。
通院そのものがむずかしい場合には、歯科医師や歯科衛生士が家まで来てくれる訪問歯科診療があります。どこへ頼めるか、費用がいくらかを当院で決めることはできませんので、ケアマネジャーやかかりつけの先生、地域の歯科医師会や地域包括支援センターにお尋ねください。私たちからは、訪問の日に見えた食べにくさの様子をお伝えします。
「入れ歯が合わない」で、保険の鍼灸は受けられるのか
入れ歯が合わないこと自体は、はり・きゅうの療養費を使う理由にはなりません。受けられるかどうかを決めるのは、体の状態と医師の同意書の2つです。腰痛症や五十肩、神経痛といった病名で同意が得られていれば、その範囲で施術を受けていただけます。同意書をお願いする段取りと更新のご案内は当院から行います。
制度の面でもう一つ。鍼灸と、同じ部位に対する医療保険のリハビリテーションは、重ねて算定できません。介護保険の訪問リハビリやデイサービスは枠が別なので組み合わせて使えます。歯科の治療も制度が別ですから、入れ歯を作り直している時期に施術を止める必要はありません。
週に一度うかがう者だから、気づけること
同じ者が定期的に体に触れていると、食べにくさは言葉より先に様子に出ます。左右どちらで噛んでいるか、食事にかかる時間が延びていないか、肉やれんこん、葉物を残していないか。頬の内側に噛んだ跡はないか、入れ歯を外している時間が長くなっていないか。訪問の日ごとに、こうした点を見ています。
見えたことは意味づけをせず、日付とご本人の言い方のまま連絡ノートに残し、ご家族とケアマネジャー、訪問看護、歯科に渡します。「痛い」と言葉に出るとはかぎらず、「今日はいらない」と食卓を早く離れる形のほうが多いからです。まとめて解釈するより、起きた順に並んでいるほうが診てもらうときの材料になります。
あご・首・肩は、どんなふうに固くなっていくか
痛む側を避けて反対側だけで噛む日が続くと、こめかみから頬にかけての噛む筋肉、あごの下、首の前側が、片側だけ張ってきます。食べにくさから顔が下を向き、肩が前に入り、胸の前が縮む。首の後ろと肩甲骨のまわりが固くなり、「肩がこる」「頭が重い」という訴えが先に出ることもよくあります。
私たちが手当てするのは、この張りと縮みです。顔まわりは表情を見ながら弱い刺激で、首の前後、肩、肩甲骨のまわり、縮んだ胸の前をゆるめます。ただし、施術で噛み合わせそのものが変わるわけではありません。感じ方にも個人差があり、土台になるのは歯科の治療です。そのうえで、口を開け閉めする動きが楽になることは期待できます。
施術のときに、こちらが気をつけていること
入れ歯は、原則としてつけたまま受けていただきます。仰向けで外すと、あごのまわりの形が変わって力が入りにくくなるためです。外したいときは、寝た姿勢ではなく座ったまま、ご本人の手で外していただくようお願いしています。
顔に触れる前には毎回声をかけます。あごの関節を強く動かしたり、大きく口を開けさせたりはしません。顔にお灸は置かず、口の中にも触れません。口の中の清掃は歯科や訪問看護、ヘルパーの受けもちです。血をさらさらにする薬をのんでいる方には、鍼の本数を絞り、圧を控えめにします。
噛めない時期に、体まで落としてしまわないために
やわらかい物ばかりが続くと、食べる量と、肉や魚、卵、豆腐といったたんぱく質が同時に減ります。半年で体重が数キロ落ちれば足の力が落ち、立ち上がりや歩きに出てきます。何をどう刻むか、とろみをつけるかは歯科や管理栄養士、言語聴覚士が決めることで、当院から食事の中身を指示することはありません。
こちらからお伝えできるのは、食べるときの姿勢です。足の裏が床や足台についているか、テーブルが高すぎないか、あごが上を向いていないか。上を向いたまま飲み込むとむせやすくなります。ご希望があれば食事前の時間帯に枠を取り、首と肩をゆるめてから食卓についていただく組み方もできます。
1回いくらで、どこまでうかがうのか
ご負担の額を決めるのは、保険証と負担割合証です。施術1回の総額が3,950円、1割の方なら395円、2割の方なら790円。数えるのは受けた回数だけで、1回の長さや使う鍼の本数で変わることはありません。お支払いは月ごとにまとめて、施術内容の分かる明細をお渡しします。医療保険で行うため、介護保険の限度額を使うこともありません。
訪問歯科に来てもらえる範囲があるように、こちらにも回れる範囲があります。大阪市でしたら北区・都島区・旭区・淀川区・東淀川区、兵庫県でしたら尼崎市・伊丹市、大阪府でしたら豊中市・吹田市・茨木市・高槻市・箕面市・摂津市・池田市。ここから外れる場所へは出ておりません。どの市区であっても費用は先ほどの金額のままで、遠いから高くなる、近いから安くなるということはありません。
こんな変化は、施術より先に歯科や主治医へ
入れ歯が当たってできた傷は、調整してもらえば数日で落ち着くのがふつうです。2週間たっても同じ場所の傷やただれが治らない、しこりに触れる、赤みや白い部分が広がってくるときは、そのままにせず歯科へ。歯ぐきが腫れて熱が出ている、腫れて入れ歯が入らない、というときも同じです。
急ぐ変化もあります。食べ物をのどに詰まらせて息ができないとき、急に口が開かなくなったときは救急です。顔の片側がゆがむ、ろれつが回らない、片腕に力が入らないが同時に出たときも、迷わず救急車を呼んでください。食事のたびにむせ込み、熱と痰が続くときは誤嚥性肺炎が心配です。当日のうちに主治医へ。数日ほとんど食べられていない、頭を打ってから数週間のうちにぼんやりする・ふらつく・頭痛が強くなった、という場合も、年のせいにせず主治医にご相談ください。
よくある質問
入れ歯を調整してもらえますか?
いたしません。調整も裏打ちも作り直しも歯科医師の仕事です。通院がむずかしければ訪問歯科診療という方法がありますので、ケアマネジャーやかかりつけの先生にお尋ねください。
入れ歯が合わないだけで保険は使えますか?
使えません。腰痛症や五十肩、神経痛といった体の状態について医師の同意書が出れば、その範囲で受けられます。
施術中は入れ歯を外しますか?
原則としてつけたまま受けていただきます。仰向けで外すとあごのまわりの形が変わって力が入りにくくなるためです。外したいときは座ったまま、ご本人の手で外していただきます。
当たってできた傷が治りません
調整してもらえば数日で落ち着くのがふつうです。2週間たっても同じ場所の傷やただれが治らない、しこりに触れる、白い部分が広がるときは、そのままにせず歯科へご相談ください。