
車いすでの生活が長くなると、下半身が使えないぶん腕が移動の道具になります。肩の前側が痛む、手のひらの親指側がしびれる。そうした訴えは珍しくありません。脊髄損傷や対麻痺のある方に保険が使える条件と、感覚のない体に施術するときに気をつけていることを整理します。
この記事のポイント
脊髄損傷という病名そのものは療養費の対象ではありませんが、麻痺した体を支える肩や腰の痛み、手足のこわばりについて医師が必要と認めれば、医療保険で訪問鍼灸マッサージを受けられます。1回の総額は3,950円、1割負担の方で約395円です。感覚のない部位にはお灸や強い刺激を使わず、皮膚の色と血圧の変化を確かめながら進めます。
脊髄損傷でも医療保険で訪問鍼灸マッサージは受けられますか
受けられる場合があります。ただし「脊髄損傷だから保険が使える」という形ではありません。はり・きゅうの療養費は病名と医師の同意にもとづくもので、麻痺した手足を支えている肩の痛み、座り続ける姿勢からくる腰痛、硬くなった関節の痛みといった状態に対して、かかりつけの医師が施術を必要と認めた場合に使えます。
同意書に書かれる病名は、腰痛症、頸肩腕症候群、五十肩、神経痛などです。主治医の診察やリハビリテーションが土台であることは変わりません。同じ部位について医療保険のリハビリを受けている間は、鍼灸を重ねて保険で受けることはできませんので、どちらを保険で行うかを整理してから始めます。同意書のやりとりは当院がお手伝いします。
損傷した高さによって、体に起きることは変わります
首の高さで傷ついた方は腕や手にも動きにくさが出て、胸から下の高さであれば下半身が中心になります。感覚と運動がまったく通らない方もいれば、感じ方だけが残っている方、わずかに力が入る方もいます。同じ対麻痺という言葉でも、ベッドから車いすへ自分で移れる方と、全面的に介助を受けている方では、体にかかる負担の場所がまるで違います。
そこで初回は、麻痺の範囲だけでなく一日の過ごし方をうかがいます。どうやって車いすに移り、何時間座っているのか。残っている力をどこで使っているのか。それが分かると、痛みの出ている場所の理由が見えてきます。
車いすの生活では、肩と手首に負担が集まりやすくなります
下半身が使えないぶん、腕が移動の道具になります。ハンドリムを回す、体を持ち上げて座り直す、ベッドや便座へ移る。この動きを何年も続けると、肩の腱板や、腕の付け根を通る腱、手首の中を通る神経に負担が重なります。肩の前側が痛む、手のひらの親指側がしびれる、といった訴えは珍しくありません。
肩や手首が痛むと移乗そのものが難しくなり、外出も入浴も一気に遠のきます。生活の幅を保つという意味で、腕の痛みは早めに手当てしておく価値があります。感覚が残っている肩や腕には鍼もお灸も使いやすく、動かしながら負担のかかり方を確かめ、座面の高さや移乗のやり方で気づいたことがあればご家族にお伝えします。
感覚のない部位に、お灸や強い刺激を使わないのはなぜですか
熱さも痛みも伝わらない部位では、体が「やめてほしい」と教えてくれないからです。麻痺している範囲には、お灸も温灸も電気の温熱器具も使いません。低い温度でも長く当たれば皮膚は傷みますし、気づいたときには深いやけどになっていることがあります。ご自宅で湯たんぽやカイロを使うときも、感覚のない足には直に当てないようお願いしています。
鍼を使う場合も、麻痺の範囲では浅く、本数を絞ります。長く体重をかけない生活が続くと骨はもろくなりやすいため、関節を動かすときに勢いをつけたり、無理に伸ばしたりはしません。施術の前後には毎回皮膚を見て、赤みや内出血が残っていないかを確かめます。
坐骨や仙骨の床ずれを増やさないために気をつけていること
座っている時間が長い方は坐骨のあたりに、横になっている時間が長い方は仙骨、かかと、腰骨の外側の出っぱりに圧が集まります。感覚がないと、痛みという合図なしに皮膚が傷んでいきます。訪問のたびに、その日の姿勢でどこに体重が乗っているかを見て、クッションの位置がずれていれば整えます。
指で押して白くならない赤みは、床ずれの入り口だと考えます。すでに傷になっている部位やその周りには触れず、離れた場所をゆるめて体の向きを変えやすくすることを目標にします。座り直しによる除圧はご本人が続けられる回数から始め、訪問看護の方が入っていれば皮膚の状態を共有します。
痙縮が急に強くなったときは、体の中に原因があるかもしれません
脊髄損傷のあとのつっぱりは、その日の体の状態に左右されます。膀胱に尿がたまっている、便が出ていない、尿路の感染が起きている、爪が皮膚に食い込んでいる、床ずれができている、衣服やシーツにしわが寄っている。こうした刺激が引き金になって、いつもより脚が強く突っぱることがあります。
ですから、普段と明らかに違う強さのときは、まず原因を探します。ゆるめようとして施術を続けても収まらないだけでなく、体の中で起きていることを見落とすことになるからです。前回と比べてどうだったかをご家族と確認し、思い当たることがなければ、その日は無理をせず主治医や訪問看護に相談していただきます。
頭が急に痛くなり顔が赤くなったときは、施術を中止します
胸のあたりより上の高さで傷ついた方には、体の下のほうの刺激をきっかけに血圧が急に上がることがあります。ずきずきする頭痛、顔や首の赤み、鼻のつまり、汗、脈がゆっくりになる、傷ついた高さより下の鳥肌や冷え。こうした症状がそろったときは、そのまま様子を見てよいものではありません。
その場ではまず体を起こして座った姿勢にし、おなかや脚を締めつけているものをゆるめ、尿が出ているか、便が長く出ていないかを確かめていただきます。原因が取り除かれれば落ち着くことが多いのですが、症状が続くようなら救急要請が必要です。施術中に起きた場合は中止します。
導尿や排便ケアの時間を避けて、訪問の曜日と時間を決めます
膀胱に尿がたまった状態でおなかの周りに触れられるのは、ご本人にとって落ち着かないものです。排便のケアの直後は疲れが残ることもあります。導尿の時間、下剤や坐薬を使う曜日、入浴サービスの予定をうかがったうえで、体が楽な時間帯に訪問の枠を固定します。曜日と時間が決まっていると、その日の予定を組み立てやすくなります。
体温の調節も見ておきたいところです。汗が出にくい方は暑い部屋で体に熱がこもりやすく、冬は感覚のない足元が冷えていても気づけません。室温と足先の冷たさは、訪問のたびに手で確かめています。
費用と、始めるまでの手続き
料金は1回の施術で総額3,950円です。1割負担の方は約395円、2割負担の方は790円、3割負担の方は1,185円が目安になります。表示の料金のほかに出張料などを別にいただくことはなく、お住まいの場所で金額が変わることもありません。お支払いは月ごとにまとめていただき、どんな施術をしたかが分かる明細をお渡しします。
医療保険で行うため、介護保険の支給限度額とは別枠です。訪問看護やヘルパー、訪問入浴の回数を削らずに追加できます。お問い合わせのあと体の状態と生活をうかがい、同意書を依頼して初回の訪問という順に進みます。うかがえるのは、大阪府の豊中市・吹田市・茨木市・高槻市・箕面市・摂津市・池田市、兵庫県の尼崎市・伊丹市、大阪市の淀川区・東淀川区・都島区・北区・旭区です。
こんなときは、施術より先に医療機関へ
次のような変化があるときは、施術を待って主治医や訪問看護にご連絡ください。ずきずきする頭痛と顔の赤みが同時に出たとき。熱が出て尿が濁る、においが強くなったとき。押しても白くならない赤みや、皮膚が破れているのを見つけたとき。片方の脚だけが急に腫れて熱を持つとき。
また、感覚のない部位は骨折に気づきにくいという事情があります。移乗のときに脚をぶつけた、車いすから滑り落ちたといったあとで、脚の形が変わっている、腫れている、いつもと違う位置でつっぱるといった様子があれば、受診してください。手のしびれや力の入りにくさが新しく出てきた、麻痺の範囲が上がってきたと感じる場合も、早めに主治医にお伝えいただきたい変化です。
よくある質問
脊髄損傷は保険の対象になりますか?
病名そのものではなく、麻痺した体を支える肩や腰の痛み、手足のこわばりについて医師が同意した場合に対象になります。同意書に書かれるのは腰痛症、頸肩腕症候群、五十肩、神経痛などです。
感覚のない足にお灸をしてもらえますか?
行いません。熱さが伝わらない部位は、低い温度でも長く当たれば深いやけどになります。ご自宅で湯たんぽやカイロを使うときも、感覚のない足には直に当てないでください。
リハビリを受けていても併用できますか?
同じ部位について医療保険のリハビリを受けている間は、鍼灸を重ねて保険で受けることはできません。どちらを保険で行うかを整理してから始めます。
脚のつっぱりが急に強くなりました
尿がたまっている、便が出ていない、尿路の感染、巻き爪、床ずれ、シーツのしわなどが引き金になることがあります。心当たりがなければ、その日は無理をせず主治医や訪問看護にご相談ください。